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ばあちゃん [菜園]

「暑いねえ、とうさん。この畑、とうさんの土地なんかねえ」
「ええ。ま、今のところはそうだけど」
「ここにばあちゃんが住んどられたと思うんだけど、もう長いこと見ないねえ。具合でも悪いのかね」
「ばあちゃんは一人居るけど、あれは俺の嫁で、まだぴんぴんしとるよ」
「いや、若い人じゃなくて、もっと年のいった腰の痛そうなばあちゃんだったと思うんだけど」
「俺の嫁だって若くはないよ、18年だもの。腰だって痛いって言うとるし」
「いや、違うね。おれが16年だから、もっといった年寄りだと思ったけど」
うちの辺りでは、女も自分を『おれ』というんです。
「そりゃ、何かの勘違いだよ。俺の母親は6年前に死んどるし、嫁の母親はこの4月まで生きていたけど、此処に住んでたことはないもの」
知らんうちに年寄りが消えてしまった、と思っているんじゃなかろうねえ。そんな事件はいっぱいあるもの。
「そうかね。何処かよそのばあちゃんを見たのかも知れん」
「でも、おたくは腰は丈夫そうだな。足は弱そうに見えてるけど。失礼だけど、体重がありすぎて膝が痛むとか」
「うん、そうじゃなくて、膝から下の血の巡りが悪くなって、まともには歩けないのよ。血管の手術をしたら直ると言われてるんだけど、おれはそんなことは絶対にせんて言ってるの。おれの友だちが全く同じ病気で手術したけど、調子が良かったのは半年間だけで、今は車椅子生活だもの。そんなことなら、ぼちぼちでも自分で歩いとるほうがどんだけましかわからん。車椅子の先は寝たきりだもの、そうなりゃ死んだ方がええよ」
「そうだよなあ。自分の足で動ける間が花だよ」
「とうさんは丈夫そうだね。この畑はとうさんが作ったのかな。一時期、此処は山みたいになってたと思うんだが」
「そう、4年前に家を作って、すぐに出張で2年間留守にしたもんで、草ぼうぼうになってしまったんだ。帰ってきてから草を取って、畑にするのは大変だったよ」
「そうなんだ。とうさんには農業の経験があるんだね」
「それがそうでもなくて、見よう見まねでやってるだけですよ」
「そう言えば、そのトマトはずい分暴れとるようだねえ。その手前にあるのは何かね」

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「あ、これは洋ぜりですよ。すごい元気でね」
「あまり近くに植えすぎだね。それじゃトマトもかわいそうだで」
「うん。去年やって分かってるんだけど、また同じような間違いをやってるんです。畑を広げるのはめんどくさいので、狭いところに植え込んでしまうってわけです」
「そのトマトだけど、そんなに暴れる前に、脇から出る芽を摘んでやらないと駄目だね。そうすれば、そんなにぐちゃぐちゃにならんから。それじゃ風通しが悪くて虫や病気が喜ぶて言われとるし」
「来年はちゃんとやってみますよ。もうこれからじゃどうしようもなさそうだから」
「そうだよ。もう手遅れだよ。若いうちからちゃんとやらんと、年を取ってからやり直しはきかんべ」
「人間も同じだよなあ。年をとってから気がついても遅いんだ」
「人間もトマトも同じだね。あ、ずい分長い間仕事の邪魔したね。熱中症にならんように気をつけてな」
「ありがと。おたくも足元に気をつけて。転んだら大変だから」

タグ:トマト
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jane

hirochiki さん
nice!ありがとうございます。
by jane (2013-07-20 20:57) 

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