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友の死 [日記・雑感]

昨日の夕刻。姫路の友人、木下さんから大きな小包が届いた。中身は野菜、とある。早速開けてみる。大根、白菜、ネギ、人参、おまけに大振りな柚子まで。その心は、鍋、だろ?

大根は3種類あって、一つは極普通にそこらで見かける大根。次はしょうごいん大根という真ん丸いやつ。圧巻は悩ましく二股に分かれた官能大根。官能的という言葉はこの大根のためにあると言わざるを得ないほど、色っぽい大根なのであった。分かれた脚は各々直径10センチはありそう。もうこんなもん大根ではあり得ないエロッぽさ。

思わず、意識をその分かれ目に集中しかけた時、電話のベルが鳴った。野菜の送り主である木下さんからであった。平素の疎遠をお互いに詫びた後、この一年を振り返る。

友曰く「今年は最悪の年やった。年明けから身体の調子が悪くなって医者にかかっていたんだけど、誤診だったらしくて、3月になって脳腫瘍が見つかったのよ。それも眼球と同じくらいな大きさだったらしい。もう手術は無理だってんで、放射線と抗がん剤を使った治療を始めたんだけど、7月頃には死にそうだったよ。俺、本当にあの時点で諦めたもん」

本人からすんなり聞かされる話としては、あまりにも残酷であった。

木下さんとはアフリカの某国で知り合って以来の友人関係にある。ちょうど3年前、ラオスに居た私に、初期の肺がんが見つかったという知らせが入る。彼は超ヘビースモーカーであった。禁煙を勧める私に、命と引き換えにでもタバコを止める気にはなれんよ、と豪語する男だったのです。

一昨年の春。このままであれば、ほぼ完治であろうと聞いた。あれから、安定した状態は一年間だけであったということになる。

「あ、だから喋り方が前と少し違うのか。俺たちが知らんところで、あんたは大変な目に遭ってたんだなあ。何と言ったらいいのか、慰めの言葉もないよ」
「心配をかけたくなかったから、知らせなかったんだけど。Tさん、これが俺の運命なのよ。どうしようもないことなんだ。覚悟はできとる」

覚悟は出来とるっていうけど、彼は私より10歳年下。どうしようもないことかも知れんけど、まだ逝ってしまうのには早すぎる。

「それで、今のところ、野菜が作れるほど元気なんだね?」
「うん、そうでもなくて、畑は姉の娘に時々見に来てもらってるんよ」
「そうなんだ。その野菜を送ってもらって、悪いなあ。それで、日常には支障はないんだ」
「これもいろいろあって、掃除や洗濯、料理なんかは、介護の人に来てもらってるのよ」
返す言葉がなかった。彼はプロ並みの料理人なのに。

「大変みたいだなあ。近くに居るのなら多少は手助けも出来るやろけど、何も出来なくてごめんな」
「いやいや、そんな気遣いはなしにしましょう。Tさん、その助平な大根、おでんにしたら美味しいよ―、食べてみて~。絶対気に入ると思う」
「あ、そ―。早速おでんで頂くよ。ご馳走様です」

ひびが入っていた片足をもぎ取って、おでんにした。抜群! 普通の大根じゃない。形は大根だけど、舌ざわりはカブに近い滑らかさ。味もしっかり染み込んでいる。片足をもぎ取る前に、そのままあの分かれ目辺りの舌ざわりも確かめるべきだったよ~ん。
木下大根.jpg

身体不調のまま新年を迎える木下さんに、来年こそいい年でありますように祈る。

以上は、昨年の12月26日に投稿したブログです。
あれから9ヶ月半。悲しい知らせが届きました。
IMG_0553.jpg

アフリカにやり残してきたことがある、と張り切っておられたので、まさかこんなことになろうとは、、、、。
それにしても、『僕はしあわせでした』 とは彼らしくもない。
木下さんは、そんな薄っぺらな男ではなかったぞ。
ご冥福を祈るのみです。
タグ:友 死
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